軽井沢の別荘文化と共に100年を超え歩む伝統工芸とデザイン

軽井沢彫家具とは、日本を代表する避暑地、軽井沢で生まれ、100年超をかけ発展してきた長野県伝統工芸品指定の木製品。明治期、外国人避暑客の要請で、日本の職人が家具を製造。桜の意匠は、外国人が好んだことに由来すると言われています。2010年、軽井沢彫家具組合5社とデザイナーとのワークショップが企画され、2011年に国の重要文化財、旧三笠ホテルにて展示会を開催。以降毎年、旧三笠ホテルで展示会が続けられています。
ワークショップ参加から現在に至るまで、開発を共に行っている木地制作担当の小林正樹さん、彫刻担当の飛田和健彦さんとのテーブルトークです。

関連リンク:大坂屋家具店ウェブサイト

『デザイナーとのワークショップ』

江口

大坂屋家具店さんは、お店に御社で開発した彫刻が施された家具や小物類を展示販売してあり、お客様は展示品を基本にサイズや彫刻をオーダーする、というやり方でこれまでやられていたと思います。今回外部のデザイナーと共同開発するのは初めてだと伺いました。

小林

定かじゃないですけど社長が組合長になる前、「何をやりたい?」って聞いてきて「デザインの勉強をしたい」って言ったような気がするんですよ。

江口

じゃあ社内でもいわゆる『デザイン』という話は出ていた?

小林

社長が組合長になって県の産地活性化事業に申請するときに、社長も既にアイデアを暖めていたと思うんです。

江口

じゃあ今回のワークショップはどんな印象でした? 自分たちだけでデザインして作るんじゃなくて、デザイナーとキャッチボールしながら作るというのは。社外のデザイナーの図面や模型を元に作るのはほぼ初めてっていうことですよね?

小林

そうですよね。まずはワークショップってなんだっていうところです。

飛田和

始める前にそれずっと言ってましたよね。ワークショップ、ワークショップって言われるけどなんなんだろうみたいな(笑)。

小林

最初聞いたとき、きっとデザイナーの人は大変だなと思いました。とても特殊な分野なんで、きっと家具のデザインはいっぱいされてても、そこにどうやって彫刻をするかみたいなのはきっと初めてだと思うので。どういうふうにしてくるの楽しみなところはありましたね、とっても。
あとデザイナーの方が目の前でちょっと絵を描いてるとか、図面を持ってきて説明してくれるとかっていうことが全くなかったので、それはすごい新鮮なものでしたね。

江口

プレゼンテーション自体が?

小林

そうですね。しゃべるのうまいな、とか(笑)。

江口

なるほどね。飛田和さんはどうでした?

飛田和

僕は合宿(デザイナー数名が泊まりがけで一日職人さんとキャッチボールしながらデザインを固めていった)の方から参加させていただいたので。

江口

夏あたりですね。

飛田和

その時はまだどんなものができるかっていうのは分からなくて。初めはとにかく意見を言うってところから始まったんですけど。ほんとに普段顔を合わさないような人たちとしゃべったりして。

江口

今回は他の軽井沢彫家具の会社の人も来ましたからね。

飛田和

人もそうですし、あのときは研究所(長野県総合技術センター)の方のお話も楽しかったり。そういう人から質問される内容っていうのも新鮮だったり。あと実際合宿に入ってみんなの考えが形になってくところとか、過程が見れたので、すごく楽しかったんです。それが終わって実際にじゃあ何を作るっていうのが決まり始めて作ったわけですけど、なんせ全てが新鮮でしたね。

江口

ワークショップって影響し合って何かができる、いい意味でお互い切磋琢磨、まぁいい意味で上手に盗むというか(笑)。垣根をある程度取り払ってやるというところが一番のよかったところかなと思うんです。 私個人で言うと、確かに彫刻を施す家具をデザインするって伺ったときは、今まで全く経験なしです。

これまで学校でも実際の仕事でも削ぎ落としてくデザイン。装飾、デコレーションするっていう意識が殆ど無く、自分は削ぎ落としていくデザイン手法の影響を受け過ぎているなっていうのは感じました。だから私も今回のテーマが新鮮でしたし、それを同業のデザイナー、職人さんとキャッチボールしながら進めるワークショップも勉強になりました。コンセプト、実際の彫り、、、結構悩んだ記憶がありますね。

今回の初期に私が提案したデザインを今日また持ってきたんです。最初はこれ(※左写真の白模型)だったと思うんですよね。私はこれ以外にもいくつか出してて。第一印象はどうでした?

木地師
小林 正樹 氏

小林

そうですよね。多作の人だなってこれを見たとき思いましたね(笑)。こうやってプレゼンテーションするんだと思って。このデザイン自体は「これが来たか」っていうか。

江口

これが来た(笑)。

小林

作る立場からいうと、あんまりやらないっていうか、やりにくいつなぎ目が木口の接着になるんで。
やろうと思ってもあえてやらないゾーンだったので。
こう来たかと思って。でも、見た目的にいい感じだなっていう印象はありましたね。

飛田和

うちにはない形だなって思いました。今、小林さんが言ったのは木地のことですけど、彫りのほうもどこに彫るんだろうっていうのが。まず広い面積を彫るというのが前提になってるみたいなことがあって。

江口

広い面がないからね(笑)。

飛田和

それがない形だったので。軽やかではあったんだけど、これどうなるんだろうっていうのが第一印象ですね。

江口

これは土屋写真館にある古い軽井沢彫家具のセッティ(2人がけの椅子)を現代の住まいに入るようにリ・デザインしようと、、。実物は大きな面を持った、彫りが沢山施されているのだけれども、相当重いと思います。もうちょっと重量も印象も軽快にと(笑)。
彫りはやっぱり面じゃないところでも見えるようにしたいなっていうのが最初からあったので。横からとかね。それであえて広い面に彫刻をたくさんする面は少なくてもいいのではないかと。

でもこれをやろうって言われたのはちょっと意外でした。色々な意味で提案性が多いっていうものではないと思っていました。それで、これをやることになって、原寸図面を書いて制作へ進むんですけれども、具体的にしていった過程っていうのはどうでしたか? やっぱり木地のほうはいろいろと作りづらいところはかなりありましたよね?笠木のところとかね。

小林

笠木のところですかね。こういう図面自体はもらうことも初めてだったんで。

江口

彫りもサンプルをいくつか作っていただいて決めていった。

飛田和

そうですね。たぶんこの家具ができてからデザイナーさんから何も指示を言われずに彫るっていうのと、今回提案してもらったデザインでは全然違うと思うんですよ。普段通りの彫りではないってことなんですけど。特にこの台輪ですか、ここは沈金蒔絵とかを元にしてたじゃないですか。ああいうのは普段やらないのですごく斬新だなって思ったのと、あとは江口さん結構星打ち(軽井沢彫り独自の彫刻手法)のことを気にされていたり。星が上がってくような感じとか、結構細かい注文があったんです。

江口

そうでした(笑)。

小林

そうなんです。効果はどうなんだろうって思うようなところがあって、それを話し合ったり。

江口

じゃあやっぱり気にするところが当然違う。だからお客さんもみているところが全然違うんですよね。

小林

そうですよね。

飛田和

そうですね。

江口

あと私は水の波紋の表現なんかもやってみたいなと思ってて。

小林

前から考えてたんですか?

江口

いや、もちろんこの仕事ですよ。水面みたいなものが木に彫刻で表現できるのか、、、木目が波打つとなんとも言えない造形じゃないか、、、と。

飛田和

あれは挑戦でしたね、ほかの彫り屋さんだったら断ってたかもしれないと思っているんですけど(笑)。俺がちょっとやりたかったんで、ぜひぜひって。

江口

あれはすごくきれいだったし。通常の彫りと較べてやっぱり大変なわけでしょ?

飛田和

面白くてよかったですよ。ほんと初めから考えなきゃいけないんで。まず波紋とはどういうものかなっていうのを温泉に行ってずっと見てたりとか。どうやって広がるのかなとか。何回も温泉に通って。「すみません、メモ貸してください」とか言って。写真画像を調べたりとか。別のモチーフになったときもああいうふうに物を見てやっていくんだなっていうアプローチの仕方が、随分と自分自身が変わったなと思ったんです。とてもいい機会でした。

江口

木地の指示はこういうふうにしてくださいっていうことを図面、数字で書くじゃないですか。彫刻の波紋の断面図を書こうか書くまいかって迷ったんですよ。例えば他でやってる仕事で、やはり波形に彫る仕事があるんですよね。それは断面図を書いて、2ミリ落ちて、何アールでと、一応全部数字で指示しているんですね。でも今回は彫刻を専門にやっている彫り師さんがいる。こちらがかっちりと書いちゃっても、その通りに彫られるだけで面白くないかなと思ったんです(笑)。

飛田和

そうですね。考えるスペースが与えられたので。そこの部分の中では自由にできるんだっていうのがあったので、やっぱりよかったですね。

江口

どうでした? ほぼ現物ができての印象っていうのは。

小林

作る過程で模型があったんで、イメージがとてもしやすかったのはあります。一人がけは座り心地がいいなっていうのができてから思いました。こういう座り心地なんだって。あと張地の柄が結構斬新で。

飛田和

張地の柄がね。どうなるのかなって。付けるまで分かんないって感じでしたよね。

小林

なかなか自分たちではやらない、なかなかっていうかきっとやらないと思うんで(笑)。

江口

そうですか。できあがりのイメージというのは、彫ってる途中でなんとなくこんな感じになるのかなと思いましたか。

彫刻師
飛田和 健彦 氏

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飛田和

なんとなくは分かりますね。今回はほんとに、結構シンプルに提案してもらったので、椅子のほうは特に両方桜だったし。台輪のところは随分違ったんですけれども。テーブルのほうに関してはほんとに、それこそ今までないし。彫ってる段階、彫りも最後のほうに来ないとなんとなくいいのかなっていうのはイメージできなくて。どこに配置しようかなとか。これだけ面積あってこれでいいのかなとか、いろいろなことを考えながらやったんで。でも結果的にとてもイメージに近かったとは思うんです。

江口

私はイメージに近いですね。張地は途中で私、変えたんですけどね。

飛田和

白っぽいのでしたよね。

江口

白っぽくてシンプルなものにと思ってたんです。でもちょっと待てよと思って。せっかくワークショップっていう場、多少トライしたり影響し合ってる中で完成させるっていうことでやってるから、ぶつかり合い、化学変化みたいなのが起きないなと思って。ですから、やっぱり張地もちょっと想像外で大坂屋さんにもちょっと想像外で。お互い想像外でいいものっていうのができるといいなと思ったんで。それで探して、こちらも100年超えてる布メーカー(GP & BAKER 英国王室御用達のブランド)だから、100年 VS 100年でいいかなと思って(笑)。

飛田和

結構、作り手としてはすごく奇抜。

江口

そうですか?

飛田和

みんなが「どうなるか、どうなるか」って言ってたんですけど、僕は旧三笠ホテル展に1日居たんですけど、見るお客さん全然関係なく「いいね」って言って。かなり座ってくれたんですよ。だから、そう考えると作り手でも勝手に決めちゃ駄目だなと思って。これは奇抜だからできないとかいうラインを引いてしまうのはちょっと危険かなと。ほんとにすんなり座ってくれてたんで。

江口

この布地決めるとき随分悩みましたよね。

小林

そうですね。

江口

女性の小林さんが結構推してましたよね、これね。

小林

そうです。最初もっとシンプルなデザインのものだったんですよね。別のソファをこの布で注文頂いたことが去年ありましたね。この布でこっちのソファをみたいな。

江口

この布も工芸品なんです。ヨーロッパ人が中国を意識した柄が面白いと思ったし。あと色も日本ではあまり使わない色が入ってるんです。あと旧三笠ホテルで展示会をやると聞いたとき、このぐらい派手なのが映えるんじゃないのかなと。私自身としては非常に気に入ってるものです。
全体の形、座り心地、彫刻、張地等々に少しずつでもトライはあって、それで完成したので、私としては成功なんじゃないかと思っています。

小林

そうですね。あまり、あえてやりたがらないところだったんですよ。この後、機械1個買ってもらって。今度その機械を応用して別の新しい、今までやらなかったことができたりすることもあったんで。こういうことがなければ、それも「買ってくれ」ってなかなか言いにくい機械だったんで(笑)。

飛田和

広がったんですね。

小林

広がりましたね。技術革新が一つできたな。

江口

今回私の提案の中でもこのデザインを選んで頂いたのはどんな経緯があったんですか?

小林

ぱっと見によさそう、売れそうだっていうところで選んでますよね。

江口

それは土屋社長もそういうところはあるのでしょうか?

小林

社長もそうでしたし、社員で投票みたいなことをしたよね。

飛田和

投票したんです。

小林

それで1番だったかな。

江口

そうですか。じゃあ皆さん売れそうかなと思ったと(笑)。

小林

結果的にはうちの会社では売れてるほうです。

飛田和

アピールポイントがあるんですよ。「これ、こういうものなんですよ」っていう売りやすいっていうのと、一人がけに関しては本当に座り心地がいい。座って決める方がほんと多くて。ほかの椅子全部駄目だったけどこれに座ってもらって決まった人も居たんですね。それを考えると実用とアピールポイント、ちょうど重なったんだなって。

江口

なるほど。そうするとストライクゾーンに着地したのかな。

小林

そうじゃないですかね。

飛田和

そうなんです。

江口

ちなみにこれを見たときに、何がそういうポイントだったんですかね。

小林

なんでしょうね。うちの会社自体にソファーセット的なものがあまりなかったっていうのはあります。

江口

今回そこは私は考えないで提案してます。後から社長に一人掛けとテーブルのセットにしてもらいたいっていう話があった。

飛田和

うちのソファは比較的ごっついものが多いですよね。その中で軽やかというか、スッキリしてて、実際サイズも小ぶりですし。部屋に置いたときのイメージがしやすいのかなというのは感じましたね。

江口

今おっしゃられた軽やかさとか、華やかさ、あまり挑戦的な姿にしないほうがいいというのは意識したんです。どうでしょうか。社外とやるっていう点では、どういうことに期待しますか?それは売れるものって言われるとそうなんだけれども(笑)。

小林

社外デザイナーの人が入るのは、これからもあっていいと思うんです。特に江口さんみたいな人は、他の分野と結びつけて新しいのを作ってくれそうな気がするんですよ。いろんな仕事をやってるので。僕たち、常に木でどうするかみたいなことしか考えないので。違う風を入れるのにコーディネイター的な位置も持ちながらデザインもできる人とは、これからはいいんじゃないかっていう気はします。どっちかっていうと私たちの技術に合わせて今回は作ってもらいましたけど、そうじゃなくて江口さんの中で、これと大坂屋の軽井沢彫を合わせてこんなのどうかなみたいな方向を提案していただいてもいいかなっていう気はします。

商品開発ってあんまりちゃんとやってこなかった。試作後、即販売だったんです。そういう時間が取れなかった。売れたら次作るときに変えようみたい。だからなかなか手間というか時間も掛かるなっていうのが今回、改めて思いましたよね。

江口

100年続いている、日本でも恐らく他にない特徴を持った家具の開発にワークショップという形で携わることができてとても私自身勉強になりました。今日は長い時間ありがとうございました。

小林

ありがとうございました。

飛田和

ありがとうございました。

対談者プロフィール紹介
木地師 小林 正樹
1972年、長野県生まれ。松本技術専門校卒業後、2000年に大坂屋家具店入社。家具製作に携わる。
彫刻師 飛田和 健彦
1979年、長野県生まれ。ESPミュージカルアカデミー卒業。地元軽井沢に戻り2003年に大坂屋家具店入社。彫刻を担当。