100有余年の美術・デザイン教育をつなぐ

創立100年超、私立の美術大学としては最も長い歴史を持つ女子美術大学。その短期大学部造形学科デザインコース創造デザイン、その中でも2年次のスペースに非常勤講師として携わり10年超。
スペースと言えども近年、デザイン領域の垣根が低い。そもそも学生の方が垣根を意識しすぎず、自由な発想をしてくる。そんな女子学生を相手にこちらも試行錯誤で臨機応変に指導すべく、、、。

関連リンク:女子美術短期大学ウェブサイト

『創造デザイン』

江口

創造デザインっていう名前。何か作りたいけどまだそれがはっきり分からない、という人も入学しやすい面がありますね。

後藤

ある意味、一面ではそういう方向はある。
メディアの部分とか、テキスタイルの部分とか、全部一緒になってるし、1年生のときは全部やったりしてるんで。もともと今までにないような新しいもの、新しい発想、そういうものが出てくるといいねっていうのが基本的なコンセプトなんですよね。ただ、そこで難しいのが、いわゆる世の中の実務的なところとどう折り合いつけるかっていうこと。
専門学校は就職とか、実務に特化していくっていうやり方も一つだし。ただ、それが2年間のカリキュラムにできるかって言われると、なかなか難しい。その後のつなぎが難しいですね。

江口

みんなファインアートの世界に行くわけじゃないからね。

中原

そうなんですよね。今回テキスタイル、メディア、スペースの各学生が共通の「カケル」というテーマで取り組んだ課題作品を見たじゃないですか。僕はわりと一緒くたに見れたんですよね。
やっぱり流れとしてこうなってるなと思って。それぞれの科が。それが魅力かなと思ってて。だから逆にかっちり分けるよりも、いろいろグチャグチャな中でやってて、最終的に特化したものがどっかで出てくればいいのかなと思ってたんですけどね。

江口

今、世の中もそういう感じなんですよね。

中原

そうなんですよ。だから建築だから建築しかやらないじゃなくてグラフィックもやるし。
だから要はアートディレクターはディレクター、こういう方も空間やったりするじゃないですか。そういう時代になっちゃってきているんですよね。

江口

そういう意味では「創造デザイン」は時代に合っているんですよね。

後藤 浩介 氏

『混沌』

後藤

時代として、僕らの時代はわかりやすいテーマがありましたよね。

江口

まだそういう感じでしたよね。具体的な。

後藤

そう。具体的な。

中原

いや、僕のときは全く違かったんですよ。
一応空間演出デザインっていうところで、舞台美術、舞台とインテリアをやりました。
ファッション科もあるんですけど、実務的なことはほとんどやってなくて。あれでたぶん世の中に出たら、全然もうあんなんじゃなんの意味もない。ただ線の引くのを覚えたぐらいな話で。で、卒業制作も結局全部アートですよ。アートまではいってないぐらいの、要は空間を捉える自由な発想。

後藤

今は世界が結構混沌としてるというか(笑)。
僕らが教育を受けてる時代は、もう少しそれぞれ分かりやすい価値基準というかそういうのがあったんですけど。今はやっぱり世の中的に、もう結構飽和している。いろんなものもあるし、ほんとに多様化してるというか。

江口

高度経済成長期が過ぎ、バブルが崩壊した頃からプロも迷いながらやっているところもあって。学生たち、若い人たちの方が敏感に感じ取るんでしょうね、大人たちが混沌としている姿を見て。

後藤

デザインの仕事自体の世の中が、具体的な何か物を作るよりも、ソフトの面っていうか最初の企画部分のデザインとか。

江口

そうですね。どう考えて、どういう組み合わせで、どんなつながりができるのか、その後どうなっていくのか、とかね。

後藤

かっこいいとかきれいとか、素敵とか、それだけじゃなくなりましたね。

江口

空間や家具は最終的には立体物を作るので、そこはとっても大事ですよね。そこを生み出すのは論理、理屈だけではできないし、魅力、、、人を惹きつけるっていう点では感性の部分。理屈では説明できないけど、みんなが魅力的に感じる空間や家具っていうのを生み出せることはすごいコトなんだけども。

『美大は何ができるのか。表現。模索』

後藤

今グラフィックの世界が、みんなコンピュータ化してて。それこそ美大じゃなくても普通に文系のところでグラフィックデザインができたりとか。っていうときに女子美、美大はじゃあ何ができて、何を教えるべきかと考えます。
おそらく今は特にグラフィックのところが一番、そういう意味では謙虚かもしれないですけどね。要はコンピュータがあればチラシなんか誰でもできちゃう時代に何を美大で教えるべきかっていうところで、女子美の場合は活版があるので、何気なく打っちゃう文字が並びますけどそれでいいのかみたいに深く考える。活版を1個1個拾って、間をコマ入れて刷るのを経験すると、やっぱり文字に対してすごく違う意味の興味を持ちますよね。
そこにただコンピュータで打っただけの文字でいいのかみたいな問題意識が生まれたりだとか。そういうところを気にしてる。美大として何ができるかですね。

江口

立体物、家具や雑貨のデザインなら、考えながらも手はスタイロフォームを削ってる、、、形には納得していないかもしれないけど手は動かす。PCの画面上、頭の中だけに偏らず、手でのカタチの発見があるはず。「美は哲学を超える」と仰っている方がいます。ほんとにそう思います。

後藤

あとは就職。大学出るまでの期間より生きてる時間のほうが長いじゃないですか。
そのあとのほうが長いじゃないですか。そのあとどう生きるかみたいなところにいくと、専門分野を学んでその専門のところに就職したとしても、そのままずっと同じ職でとどまるっていう世の中でもないですよね。
特に最近、産業構造も変わってて、家電業界も大きく変化していますし。

江口

車だって家電になっちゃう。LEDの照明は家電の会社じゃなくたって扱っている。

後藤

そうだね。そういう直近の今の世の中のそこの分野に必要な技術だけを覚えさせて卒業させたとしても、その後の社会の動きの中で耐えられるかという問題がある。
僕らのころはたぶんギリギリじゃないですかね。プロダクトみたいなものをちゃんと大学で学んで、車や家電とかっていうのも好調な時代で。
それこそ3月にみんな就職決まる。インターンに行って決まる。で、みんな会社で一生働く。
明確な流れみたいなのが僕らのころは見えてたんですけど。今はもう、とてもじゃないけどそういうことでもないと思う。
だからそのときに、例えばテキスタイルでも空間でもメディアでもいいんですけど、何か自分で表現手段、表現方法っていうのを何かいろいろ模索できたりする根気強さが必要ですね。

江口

そうですね。苦しいだろうけれど、1回でも今の自分の力で目一杯の模索をした経験があると必ず役立つ。

中原

そこが教えるべき大事なところで。

後藤

そう、たぶんそこが結構重要なのかなっていう気もします。

中原

だから悩んで悩んで考えて考えてっていうのは、結果だけ言えば分かんないですけど、それ自体が価値あることですよね。で、いろんな引き出しが出せるようになって。

後藤

その結果、例えば会社が変わって違う素材扱ってる会社でも動けたりとか。自分のアイデアを、じゃあこの素材だったらこういうふうにするといいんじゃない、みたいなこともできるようになるのが理想かな。

中原 正昭 氏

『伝統 変化 提案』

中原

伝統的なことは別でしょうね。あれはもう本当に専門の学校に行ってしっかり技術を学んで、そこの師匠の弟子として学んで、いつか自分が引き継ぐという流れ。そのスタイルはまだ残ってそうですね。
でもそうは言っても、和傘なんかもそうなんですけど、だんだん事業としていは落ちてきてもう潰れる。あれも伝統的なものですけど、次世代のために若い人がこれじゃまずいとなって考えたのが、和傘を使った照明器具なんですよ。見たことありますか?そこでほんとに今までのものが崩れたんですよ。だから一概にずっとその伝統の傘だけを作ればいいってもんでもない。そのままじゃ生き残れなくなっている。

江口

そうですね。伝統のものはなかなか難しい。私は長野県の伝統工芸に指定されているの軽井沢彫家具という世界でデザインで携わってるんだけど。守っといたほうがいいな、下手にでしゃばらないほうがいいんじゃないかと感じるときもある。ただこのままだとなくなっちゃう可能性も否定できない。そこは揺れますね。

中原

ですよね。でも違う方いっちゃうとうさんくさくなってしまう恐れもある。

後藤

そうそう。ギリギリのところですよね。うさんくささと伝統の。

中原

でもそれが50年後100年後にすごい伝統のものになってるかもしれないし。

江口

100年の間にはそのときの時代で変化はしてきてるから。いずれにしたって変化するところは変化をする。伝統をあえて変えるような提案もする。変われるってことは先見性、器量があるとも言える。
学生のことに置き換えると、迷いながらもやっぱり提案することはしっかりと意識してやってほしいなって感じます。仮に就職して上手くいかないときにも、自ら思い切って何かを提案するっていうことを意識的にできれば、先が見える可能性がある。自分だけの世界で、ペースでやるっていうのもあるけども、それは学校に来なくてもある意味できる。学校で学ぶということを選択したのだから学校、我々、或いは友人に提案して欲しいですね。もしかしたら年代的に我々にはちょっと理解しにくいものもあるだろうけど、こちらも何とか聞こう、分かろうとはする、がんばって(笑)。

『手描き CG』

江口

学生のときとデザイン事務所に入ったときの、ギャップはありましたか。

後藤

ありましたね。

江口

やっぱりレンダリング。コンピュータがまだそんなに発展してない時代だから。

後藤

そうなんですよね。パースとかはやりましたけど。ステレオ描いたりとか(笑)。やりましたけど、やっぱり今でこそ学生にも言いますけど、とりあえずまず絵にするとか、下手でいいから描くとか、粘土こねるとか、なんかやってるとやっぱり次はこうしてみようかってあるじゃないですか。だけどやっぱり、それずっと頭の中でぐるぐるしてても何もはじまらない。恥ずかしいとかじゃなくて(笑)。

江口

それ僕もそういうときありましたね。展示会とか学生のときにもたくさん見に行ったんですよ。建築でも何でも。そうするとラフスケッチとかいって出してても、みんなすごくかっこよく描いてるじゃないですか(笑)。それを真に受けちゃってたから。女子美の学生でもちょっと人に見せるものはみんなかっこよく描くものだと思ってる人は多いと思いますよ。

後藤

そういう教育だったせいもあるんですけど、大学のときには結構システマチックに進められるもんだっていう頭もあって。次こうやってこうやってこうやっていけば自然とこういう収まりどころみたいな考え方もあったんですけど、そういうのもガラッと変わりました。
当然、ある程度はシステマチックなところあるんですけど、やっぱりイメージじゃないと、具体的なものがあって初めて始まるみたいな。

中原

ここの学生は絵、上手ですね。

後藤

上手ですよね。さすが美大に来るだけあって、みんな絵は好きだし。

中原

そうそう。そう思いましたね。

後藤

あと、手描きのほうが主張が分かりやすい。何をやりたいのかっていうのが絵を見ただけで分かるじゃないですか。

中原

線の強弱とかもあるし。

後藤

そうそう。自分が言いたいことだけ。

江口

こだわってる部分は正確なパースよりも大きくなってるとかね(笑)。やりたいところはね。

後藤

そうそう。だからそこをどうしても、手描いてるときに自分がやりたいところはここだっていうのがたぶんあって。で、それがやっぱり手描きだと分かるんだけど、それをコンピュータでやると均一な線になっちゃう。何がいいんだか悪いんだか分からない。一時期よく中国の仕事とかでも、全部最終のアウトプットがCGとかであって。でもCGに起こしちゃうとみんな同じように見えるんですよ。
だから、あるときからあえてそれをみんな手描きに変えたりとか。3Dで起こしちゃうと、結局均一になっちゃってみんな同じように見えちゃうんですよね。

中原

僕は未だにでもその辺りは、ちょっと意識してて。コンペとかだとあえて手描きでやってる。
図面とかも平面図もあえてですね。しかも線使わず、ふにゃふにゃふにゃっていう感じで。
要はコンピュータでもできちゃうんですけど、あえて手描きで差を出したりとかを意識します。

後藤

ここの学生はホントみんな描けるんですよね、さっきの授業で、すぐにこういう企画書を作りますみたいな話になっちゃう学生がいて。でもその人が描いた1枚の手描きのスケッチがすごいよくて。絵がいいからこの絵をちゃんといっぱい描いて、それを展示しようよって話になりました。

江口

みんな、あんまり気づいてないところもあるのかもしれないね。

後藤

それぞれ味が違うから、すごく個性が出るんですね。オリジナリティというか。絵って。面白いなと思って。

江口

はっきりと褒めてあげないと分かんないのかもしれないですね。最初の思いつきの時のきれいに描こうとしていないラフなイメージみたいなものが、1番伝わる場合もあるんですよね。

『デザイン教育』

後藤

デザインっていろんな答えがあって。正解があるわけじゃないから。それぞれの立場でそれぞれの意見があるじゃないですか。だからそういうのは今の複数指導のような状態のほうがいいかなと思います。いろんな先生からいろんなことを聞いたほうがいいかなっていう気はするんですね。
その中で自分がどう判断するかっていうほうが大事。
だからなるべく学生のうちは、いろんな考え方の先生と、好きか嫌いか、いいか悪いかは別にして、まずは話をしてみた方が後々いいような気がしますね。
1人のその先生の話で道を決めてしまうよりは、その先生の価値観だけじゃなくて、非常勤の先生も含めて価値観が違ういろんな先生から学んでもらった方がいい。

江口

今は小中学校も担任が2人体制の処もあるから。今の子たちはもしかしたらそういうの慣れてるかもしれないですよ。大人はそれぞれ違うこと言う場合があるっていうことを(笑)

後藤

大学の授業も今になって思うと、役に立たないものほど役に立つというか(笑)。

中原

でもそれ、思いますよね。

江口

そうやって覚えてるぐらいだから。

中原

インパクトがありますからね。

後藤

すぐ役に立つようなことじゃなくても。

中原

人によっても違うでしょうね、受け手次第。僕の先生の話は聞いててすごいよかったですけど、何言ってんのっていう学生がたぶん居たと思うんですよね、そのとき。

江口

そういう人は居る(笑)。そのときのそれぞれのアンテナの向きとか感度とか。

後藤

あとになってみないと分かんないですけどね。

江口

あとになってよかったなと思ってもらえる、こともある(笑)。

後藤

そうそう(笑)。

江口

今日はあらためてデザイン、教育、色々な話しができてとても良かったと思います。お忙しい中ありがとうございました。

後藤

ありがとうございました。

中原

ありがとうございました。

対談者プロフィール紹介
後藤 浩介 - 女子美術大学短期大学部 造形学科 デザインコース 教授
1964年生まれ 九州芸術工科大学 卒業
㈱ジイケイ設計を経て東京大学 大学院新領域創成科学研究科 社会文化環境コース 環境人間学分野 修士課程修了 環境学修士
中原 正昭
1972年埼玉県生まれ 武蔵野美術大学卒業
有限会社 橋本夕紀夫デザインスタジオでの勤務を経て、株式会社 エヌエフデザイン設立